王道古典の『ビジョナリーカンパニー Ⅰ 』を今一度確認してみた

 

事業や会社の目的、ビジョン、世界観を描く参考にと思い、王道古典の『ビジョナリーカンパニー』を読み、その内容から一部読書メモを書き出しましたので、公開します。

 

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◯まえがきとあとがきから見える本書の位置付け、捉え方

 本書は今も通ずる(書末のよくある質問での言及)

本書で述べられていることは因果とは言い切れないが相関はある。
しかし、歴史研究から、「ビジョナリーカンパニーを特徴づける性格が、ビジョナリーカンパニーになる前、大成功する前から表れている」のは単なる偶然の相関ではないのではないかと考えている。

ビジョナリーカンパニーは全て、歴史のどこかの時点で、評価を落としている。


◯2章 時を告げるのでなく、時計をつくる

素晴らしいアイディアの神話:
ビジョナリーカンパニーとは逆相関
(例 ウォルマート、HP、ディズニーは不発だったりアイディアなしで会社を始め稼ぐために色々やった 最初からいいアイデアがあったのは3社のみ そのうちフォードは元から割と伸びてて例外感)

会社が最大の製品
自分の力でどうこうできない、死んだ後にも続くもの

 

時を告げるのでなく(事業をつくることに腐心するのでなく)
時を告げる時計をつくる(事業をつくる会社をつくる、社員や組織文化を重視する)
製品についてのビジョンでなく組織についてのビジョン

指導者は必ずしも必要でない
"建築家"

 

1962年に郊外型アウトレットショップを始めたウォルマート以外にも既に1958年ごろから同種のビジネスをやってたところは多い。
ただウォルマートが今一位なのはどこよりも上手くやっただけ。

 

ビジョナリーカンパニーを築くにあたってとくに重要な方法は、行動ではなく、視点を変えること。

*参考例:
ニュートンの革命とダーウィンの革命(神がすべて作った→実は理論がある)
アメリカ建国(西洋では優れた国王が重要→アメリカは指針、仕組みが重要だ)

 

 ・挿話 ORの抑圧をはねのけ、ANDの才能を活かす


陰陽思想
両方を徹底する
混ぜてグレーにするわけでも、バランス(50と50)をとるわけでもない、別個で同時に共存させる
相反するけど、難しいけど、それを受け入れて、同時に追求し成果を出す


◯3章 利益を超えて

 

・p89

基本的理念とは
「われわれが何者で、なんのために存在し、何をやっているのかを示すものである」

内容や正しさの話しではない。外部の人が評価するものでもない。

cf.アメリカの独立宣言 リンカーンゲティスバーグ演説
「自由を信じ、すべての人間は平等につくられているという信条にすべてをささげる・・・国」

http://eikojuku.seesaa.net/s/article/243823964.html

 

企業の存在理由は個人ではできないことをなすために人が集まり、社会に貢献するため。
(社会への貢献はありきたりではあるが、すべてはそこにいきつくほど基本的なものである。会社が存在する)

ビジョナリー・カンパニーにとって
利益や株主の富の最大化は、最大の目標、原動力ではない
事業とは経済活動、金儲けを越えたもの
利益は人間にとっての血液、水のようなもの

現実的な理想主義

 

・表3-1 ビジョナリー・カンパニーの基本理念

ボーイング
-航空技術の最先端に位置する。パイオニアになる。
-大きな課題や冒険に挑む。
-航空学の世界に寝食を忘れて没頭する。

マリオット
-自宅から離れている人々が友人に囲まれ心から歓迎されていると感じられるようにする

ソニー
-日本の文化と地位を高める
-開拓者である。他に追随せず、人のやらない仕事に取り組む。
*ソニーのイメージ通り 名は体を表す、感

ウォルト・ディズニー
-皮肉な考え方は許されない。

*社会心理学:人はある考え方を公表すると、それまではそうした考えがなくとも、それに従って行動するようになる傾向が特に強くなる


★基本理念=基本的価値観+目的

 

基本的価値観:
「組織にとって不可欠で普遍の主義。いくつかの一般的な始動原理からなり、文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない。」
・逆算的、計算的なものではない。もともと深く信じていたもの。内側にあるもの。
・★他のビジョナリーカンパニーの基本的価値観を真似たものではいけない。経営書を読んでも、経営理念は生まれない。
・3-5つ 鋭く短い言葉 多くなる時は基本的なものは?と考える

例:
ウォルマート「顧客をほかの何よりも優先させる。顧客に奉仕しない人、顧客に奉仕する仲間を支えない人は必要ない。」
*アマゾンと似てる 小売はこれがより根本的、大事なものになるのか?
HP「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」


目的:
「単なる金儲けを越えた、会社の根本的な存在理由。地平線の上に永遠に描き続ける道標となる星。個々の目標や事業戦略と混同してはならない。」
(永遠に近づけず、追い続けられる、地平線や星
・目的の役割は指針となり、活力を与えること。これを貫けるか
・独自のものである必要はない。他社と似たものでもよい。
・目的は広い意味を持ち、根本的で、不変なものに。正義。
・目的が完全に達成されることはありえない。(想像力がこの世からなくならないかぎり、ディズニーランドが完成することは絶対にない。)
・100年後にも通用する答えを探す。「この会社を閉鎖し、精算し、資産を売却することもできるのに、そうしないのはなぜか」


◯5章 社運を賭けた大胆な目標

BHAG ビーハグ
Big Hairy Audacious Goals

・大きな方向を指し示すが、わかりやすいメッセージ(A4 3ページなどの説明がいらないもの 月旅行、エベレスト登るなど ひとつ

・不退転の決意とリスク

あるBHAGを達成したら、次のBHAGを設定、達成すべき。その繰り返し。目標達成症候群になるから。

ソニーの元の社名は東京通信工業


◯第10章 はじまりの終わり

ビジョン=長期の経営理念+将来への進歩

-全体像を描くこと

-驚くほど広範囲に、驚くほどの一貫性を、長期にわたって保っていくこと

 

"ビジョナリーカンパニーは芸術の傑作に似ている"
cf.ベートーベン第9響 ライトやミースの建築作品

 


◯付録2 ビジョナリーカンパニーと比較対象企業のルーツ(設立周り):

 

18事例


年齢が若い方がビジョナリーカンパニーになっている例(年がわかるもので):そうじゃない例
=6個:4個=1.5:1
-両方または片方の年齢不詳は除く 片方の共同創業者らが1人は年齢不詳、1人でも年齢がわかっているものだけは含む

*最初のアイディアがないのは単に若いから?共同創業者といるのが強力だから?


ボーイング
35歳
設立者は材木商から航空業界に参入した

 

*20代創業の企業

HP
共同創業者2人 26歳

 

マリオット
26と22
(vs ハワード・ジョンソン 27歳

 

メルク
23歳
設立時の事業目的 化学会社E・メルクの販売会社 一族の薬局がルーツ
(vs ファイザー 25と28

 

ウォルマート
1945年(郊外大規模出店は1962年)
27歳

 

ブリストル・マイヤーズ
20代前半

 

コルゲート
23歳
石鹸

 

 

◯ビジョナリーカンパニーにおける、十二の崩れた神話(通常言われることとは、逆のことが言える):

 

神話1 素晴らしい会社には、素晴らしいアイディアが必要だ
現実 ビジョナリーカンパニーには、設立時に、具体的なアイディアが全くなく設立されたものも多い。
ウサギとカメのカメ。当初から成功してるところは少ない。

 

2 ビジョナリーカンパニーにはビジョナリーで偉大なカリスマ指導者が必要だ
ビジョンを持ったカリスマ的指導者はいらない
時を告げるのでなく、時計をつくる

 

3 とくに成功している企業は、利益追求を最大の目的としている
利益追求は最大ではない
ビジョナリーカンパニーは色々な目標を持っている 金儲けはその中のひとつ

 

4 ビジョナリーカンパニーには共通した「正しい」価値観がある
ビジョナリー・カンパニーは、「何を価値観とするべきか」と問いを立てることはない。「われわれが実際に、何よりも大切にしているものは何なのか」という問いを立てる。(*既に大切にしているものを大切にする。
確かに洗練さや人道的なものはあるが、大事なのは内容ではなく、既にその内容をどれだけ深く信じれているか。

 

5 変わらない点は変わり続けることだけである
ビジョナリー・カンパニーは、基本理念を信仰に近いほどの情熱を持って維持しており、基本理念は変えることがあるとしても、まれである。その存在理由は、地平線の上で輝き続ける星のように、何世紀にもわたって、道しるべになることができる。

 

6 優良企業は危険を侵さない
堅苦しく保守的かもしれないが「社運をかけた大胆な目標」に挑むことは恐れない
大冒険だからこそ人は惹きつけられる

 

7 ビジョナリーカンパニーは誰にとっても素晴らしい職場
基本理念と高い要求に「ぴったり」と合う者だけ
中間はない、はまるか出るか カルト的

 

8 大きく成功している企業は、綿密で複雑な戦略を立てて、最善の動きをとる
ビジョナリーカンパニーがとる最善の動きには実験、試行錯誤、臨機応変など文字通り偶然によって生まれたものがある
大量のものを試し、うまくいったものを残す
ダーウィンの「種の起源」の概念の方がどんな戦略策定教科書よりも役に立つ

 

9 根本的な変化を促すには、社外からCEOを迎えるべきだ
社外からCEOをほとんど迎えていない。(1700年中4回、18社中2社)


10 もっとも成功している企業は、競争に勝つことを第一に考えている
★他社との競争より、自らに勝つことを第一に考えている。

 

11 2つの相反することは、同時に獲得することはできない
OR思考ではなくAND思考(考え方)
二者択一は拒否
理性的なORの抑圧で、自分の首をしめることはない

 

12 ビジョナリーカンパニーになるのは主に経営者が先進的な発言をしているからだ
ビジョン、価値観、目的、使命、理念などを文書にすることはビジョナリーカンパニーを築く上で「一歩」にはなりうる

 

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*参考

 

・ビジョナリーとは?

「ビジョン」のような目標なくしてコンセプト(アイデア)を開発することはできない
✕「いや、もうかるなら和牛じゃなくても国産牛でも輸入牛でも。豚でも魚でも保険でも仏壇でも、何でもやりますよ」
◯「日本の畜産文化を守りたい」「和牛文化のすそ野を広げたい」
https://dentsu-ho.com/articles/1586

 

・批判的意見

ダニエルカーネマンはビジョナリーカンパニーは嘘っぱちだと言っている。

3つの理由:

-もう廃れてる会社多い
-『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、大まかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。→平均回帰
by 『ファスト&スロー』

-もともと運の要素もある
http://blog.tinect.jp/?p=33998

 

・今も参考にできるものはあるか?

第一に、基本理念を明確にするという点は揺るぎないと思う。ビジョナリー、基本理念を明らかに未来志向であること、そして、それが継続するように、組織の中に埋め込むこと(著者は「時を告げるのではなく、時計をつくる」と表現している)の重要性が明らか。

 例えば、ソニーはそもそも「日本の復興と技術進歩」という基本理念が、失われたからこそ、技術の会社ではなく、単なる金融会社になってしまったのだろう。
http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1059719822.html